全県行事
第29回経営研究フォーラム~参加者221名が"百年続く企業づくり"を学び合う~
2018年11月14日(水)富山県民会館にて、第29回経営研究フォーラムを開催しました。
「日本で一番大切にしたい会社」と題して、坂本光司先生の記念講演から始まり、付加価値の増大・事業承継・人材確保・人材教育という4つの経営課題ごとに分科会を設け、それぞれ興味あるテーマの分科会に参加して頂きました。県外からもたくさんの方にご参加いただき、総勢221名が"百年続く企業づくり"を学び合いました。
実行委員長挨拶
まずもって、第29回経営研究フォーラムにご参加いただき、ありがとうございました。皆様のおかげで最高のフォーラムを開催することができました。
拝命頂きました近江代表理事はじめ、三役の皆様、ありがとうございました。多く時間を共にした最高の実行委員会メンバーの皆様、一緒に作り上げて頂き、最後まで一緒にやり遂げて頂き、ありがとうございました。最高の分科会を運営して頂いた部会長はじめ各部会の皆様、グループ長の皆様ありがとうございました。最高のサポートをして頂きました事務局の皆様ありがとうございました。支部長はじめ、各支部の皆様で最善の声掛けを頂き、ありがとうございました。
記念講演では坂本先生がこれまで調査研究してこられた中小企業の中でも元気で幸せな会社を多くの事例を持って、我々に発信して頂きました。相手の夢の実現を自分の喜びとすることや、社員の成長が会社の成長であることを理解している会社は、社員教育におけるお金と時間の使い方が明確な数字で表れることなど、具体的に教えて頂きました。またそこで働く社員自身が自分たちは大切にされていると実感できる企業であること。利益優先ではなく、幸せ軸で物事考える事。経営者が一番大切にすべきは社員とその家族であること、社員は顧客と仲間であること。幸せであるかを示す指標など、全てが具体的な内容であり、学ぶべき情報が多くありました。
そして、分科会では、参加者の経営課題を解決すべく、4分科会に分かれ、それぞれの最高の報告者のもと、グループ討論も活発に行われていました。それぞれの視点や課題をもって、ご参加頂きました。全ての方に気付きがあり、百年続く企業のヒントを十分に感じ取れる経営研究フォーラムであったと確信しています。
経営研究フォーラムとは富山同友会の学びの集大成の場と位置付けであると諸先輩方よりお聞きし、バトンを継がせて頂きました。全県行事である以上、内容、運営、そして目標において拘りと責任を持って臨まなければならないという思いで臨み、その思いを皆様に表現できたと感じております。
今回、このような素敵な役得を頂き、仲間、学び、成長、責任など様々なカテゴリーにおいて成果と反省を感じつつ、実感できた前向きな思いの輪を同友会内に広めていきたいです。
これからも、学び合い、自己、自社の成長につなげ、お客様、そして地域に貢献し続ける企業つくりを共に取り組んでいきましょう。同友会はそれを叶える最高の場です。最後に皆様、ありがとうございました。
記念講演「日本でいちばん大切にしたい会社」
講師:坂本 光司氏 経営学者・元法政大学大学院教授 人を大切にする経営学会会長
私はこれまで8,000件以上の会社を訪問しています。神奈川県川崎市に園児1,300人、日本中から入園希望が殺到する『柿の実幼稚園』があります。全園児のうち300人は障害を持った子どもたちで、症状が軽い子から重い子まで幅広く、様々なご苦労もあると思いますが素晴らしい運営をされています。例えば、ここは園児数が多いので、最初の子から最後の子が通園するまで2時間ほどの幅があります。園長さんは毎朝、園児1人ひとりに声をかけ握手して迎えます。1人ひとりの反応を見て、普段より声が小さい子がいれば、担当の保母さんに「気をつけてあげて」と声をかけています。「大変でしょう」と言うと「いえ、これが私の仕事ですから」と答えられました。この様子を見るに、経営者はやらなくていい仕事、社員に任せた方がいい仕事までやりすぎていると感じます。経営者しか出来ない仕事とは何か?を常に問うことです。
「やり方」よりも「あり方」
私が提唱している『日本でいちばん大切にしたい会社』の精神が、中国、台湾、韓国、ベトナム、タイなど海外へも広まっていることを感じます。書籍も各国語で翻訳されています。それぞれ自分の国に問題があると思っているからなのでしょう、各国から来てほしいと言われますが、こちらも忙しいので全てには応えられません。そうすると彼らは日本にやってきます。その時は必ず「わたしは在り方の話しかしません。テクニックや方法論は話しませんよ」と言います。また「なぜ中小企業なのですか?」と私が逆に質問すると、決まって「日本の大きな会社からは学ぶことはもうありません。大企業から学べば学ぶほど会社がおかしくなる」と言います。
台湾に社員数が1,000人を超える『鼎泰豐(ディンタイフォン)』という外食企業があります。日本にも出店しているのでご存知の方もあると思いますが、毎年40~50人の採用募集に1万人以上が応募します。1,000人いる社員の99%が正社員です。私はあえて「なぜ1%が非正規社員なのか?」と尋ねると、社長は「介護や家族の都合で非正規を希望する人がいます。本当は全員正社員にしたいと思っています。
日本でも大卒で3割、高卒5割、中学7割が早期に離職しますが、同社では入社から半年間の離職率はゼロ。ちなみに日本の大企業の平均は、約3割です。辞めることを最初から想定して採用している企業には、怒りを感じるほどです。さらに社員1人あたり、1ヶ月当たりの平均残業時間は?と尋ねると、「0.5時間=30分」。勤務時間が長い、残業時間が多い会社は儲からない、のは当たり前なのです。
会社とは何でしょうか? 私は右表の①~⑦だと考えます。例えば、モノづくりは当然製造機能がありますが、製造の前と後の工程を強化すべきです。前とは研究開発、後とは販売部門です。また農業は未来産業です。ただ作るだけではだめ、作ったものを単にJAなどに納めるもだめです。海外輸出やお客様に直販しているところが伸びています。
また会社は雇用の場を作っている雇用維持・拡大業であり、人財育成業です。入社してくれた社員を定年まで成長させる責任があるのです。有名なところでマズローの欲求5段階説がありますが、いまは6段階と言われています。5段階目が自己実現で、6段階目が他己実現。会社の成長は社員の成長の総和であり、会社の成長は社員を成長させることです。社員を成長させたいと思ったら金と時間をかけるべきで、時間で言えば総労働時間の5%。会社の机からひきはがして能力開発・自己啓発です。金額でいえば社員1人あたり10万円が目安です。会社は最後の学校なのです。
企業経営の目的とは何か?
全ての行動には目的・手段・結果があります。会社経営の目的は、会社に関わる全ての人々の幸せの追求・実現です。業績は手段もしくは結果。もちろん赤字では幸せになれませんから黒字は絶対です。その上で価格競争(相見積もり等)から非価格競争企業への転換を図らなければなりません。
先日兵庫・大阪・京都の会社を見学する機会がありました。ある自動車部品製造の会社は2次下請けから7つの改革を行った結果、取引先は3,000社に増え、そのうち千社が海外になりました。この会社は朝8時から午後5時までが就業時間なのですが、5時以降は会社に誰もいません。
あなたが考える「いい会社」とは?
皆さんにお聞きします。いい会社とはどんな会社でしょうか?明確なモノサシをお持ちですか?
私はこれまでの経験から、①業績や勝ち負けでなく、関わる人々の幸せを最優先する経営を実践している②その企業に関わる人々が、自分たちは大切にされていると実感している の2つの条件をクリアしている会社だと考えています。①は同友会会員なら賛同されると思いますが、相手(社員)がどう思っているかが大切です。「社員の気持ちはわかっている」という人がよくいますが、本当に本音を言っていますか?人事権を持っている人には本音は言わないものです。それでも知りたいと思う方は、2年に1度ぐらい社員の意識調査をやればいいと思います。もちろん無記名です。
会社に関わる主な人々は右表の5人です。それを大切さの度合いで上から順に並べてみました。やはり「社員とその家族」が最も大切です。おわかりだと思いますが、大切にすることと甘やかすこととは根本的に違います。また経営者と社員とでは、大切の度合いは変わります。経営者は社員とその家族が1番で、社員は、実践している前提で言えば1番はやっぱりお客様で、2番は同僚や仲間なのです。
中小企業のよさを生かして
最後に、「日本でいちばん大切にしたい会社」の実践例をいくつかご披露します。
福島県郡山市にある社員数45名の会社では、ある女性社員の旦那様が不幸にも亡くなった時、社員から「彼女の子供さんが大学を卒業するまでの学費を会社で出してあげてください」という声が出て、その通り支給しています。
また静岡県浜松市の会社は、「社員は家族」を掲げていて、40才以上の社員とその配偶者は会社負担で人間ドックを受診します。さらに40才以下の社員は、そのお母さんが人間ドックを受診する仕組みが設けられています。
取り組みは企業によって千差万別です。それが中小企業のいいところです。会社に関わる全ての人々を幸せにする「いい会社」への努力を進めましょう。
記録/玉崎勝弘(事務局)
第1分科会「企業価値を生み出し続ける組織へ!力を発揮できる環境づくり ~happyな付加価値とは⁈~」
報告者:中野 愛一郎氏 ㈱イベント・トゥエンティ・ワン 代表取締役社長(奈良)
奈良同友会から「世界を変える企業を目指す」中野愛一郎氏をお招きし、企業価値を生み出し続ける組織についての実践報告をして頂きました。
同友会入会は、父にとっては人生そのものだった会社を継いだ2ヶ月後。同友会と自社は不離一体、同友会の学びと共に発展し、売上1億が16億に、社員数4名が162名にまで成長。
1番大事なのは人であり、グループ討論などのアウトプットする場を増やすことで主体者が増え、社員みんなが自分達で考え、自分達で会社をつくっていく。全社員が同じ方向を向くことですごい力を発揮できる、そんな強い組織をつくる方法として、企業文化について報告されました。企業文化をつくる上で3つの要素が必要であり、1つは、『You Happy We Happy』の理念、2つめは、ミッション、会社がやるべきことを準備し、社員にビジョンを大切にしてもらうこと、3つめはコアバリュー、感謝の気持ちを伝える価値観です。
グループ討論では『自社の企業価値を考えよう』をテーマに、自社の付加価値やそれを高め実践するために社員(仲間)と何をするかを、各々アウトプットしました。
大きな学びと気付きがある充実の分科会になりました。
記録/新村 悠祐
第2分科会「今後100年愛され続ける会社であるために~事業継承における経営者の責任と環境づくり~」
報告者:野老 真理子氏 大里綜合管理㈱ 代表取締役社長(千葉)
徹底した行動力にただただ圧倒される報告でした。
37歳の時に重大な事故があり、それがきっかけで会社は大きく変化します。再発防止のため、『気づく訓練』の掃除を22年間、毎日1時間、全社員で続けています。気付く訓練は、1,000以上の業務改善、顧客満足、地域貢献に発展しました。
地域住民と共に活動を行い『一隅を照らす』という経営理念を実践しています。社員は就業時間の4割を、300を超える地域貢献活動に使っていますが、会社は黒字を継続しています。 東日本大震災後、自分達でできる事をと、電気の使用量を全社員で工夫して削減し、当初の目標3割減から今は8割減を達成しました!
反面、毎日1時間の掃除で半数の社員が離職し、電気使用量削減も社員がもうやめたいと言いました。でも、野老さんは決して諦めません。それは、理念の実行だからです。 経営者の理念に対する想いと覚悟によって、理念が日々の行動に落とし込まれ、百年続く会社の背骨になっていくと感じました。
記録/東出 悦子
第3分科会「ダイバーシティが生み出す宝物~23人総活躍会社を目指す我が社の取り組み~」
報告者:川田 俊介氏 ㈲川田製作所 取締役副社長(神奈川)
報告者の落ち着いた、もの静かな声で、ゆっくりと第3部会は動き出しました。
スクリーンに映し出された会社の集合写真、その全員の笑顔からは、川田製作所の人と人とのつながりの強さが確信できます。
報告では、障害者雇用や外国人雇用について、また地域に対してなど、川田氏のとらえ方や心の動きが、脚色もなくありのままに、所処に静かにユーモアも盛り込みながら、非常に聞き易い内容でした。報告者の強い信念だけでなく、自己や業界、社会情勢の現状分析についても大変緻密されている報告でした。
川田製作所の変革は、大きな取組ではなく、地道な実践の積み重ねによる、という印象を受け考えさせられる内容でした。
報告者まとめでは、「多様性の取組はトラブルも出てくるが良い影響が沢山あった。マイナスからプラスが生まれるという事を実感させられた。その1つとして、起きることは防ぎようが無いという考え方、起きる事を焦らず受け止め続ける力を企業としてつける事が出来た。」と閉め括られました。
質問は、障害者、地域への取り組み、会社の体質改善、外国人労働者についてなど、非常に多岐にわたる内容となりました。討論では、障害者雇用の必要性を感じているが、具体的にどのように進めるか?という課題が浮き彫りになり、なかには雇用そのものを諦めてしまっている発言もあり、深刻さを感じます。
座長から「これからの人材とこれまでの人材に対する見方を、多様性は変える」といったまとめがあり、参加者は何らかの宝物を持ち帰えることができた、分科会でした。
記録/炭谷 政樹
第4分科会「地域と共に成長する企業を目指して ~良い地域をつくる活動とは~」
報告者:湯本 晴彦氏 ホテルさかえや 代表取締役社長(長野)
10年前に引き継いだ旅館「さかえや」が六年前に経営の苦境に立たされた時、覚悟で変わっていった湯本氏と社員の取り組み。こんなに人は変われるのか!という思いで聞きいった報告内容でした。
障害を抱え15年間引きこもりだった湯本氏の弟さんをきっかけに、障害の有無にかかわらずみんなが輝ける職場にしたい、という思いで取り組んできましたが、6年前に幹部社員の連続退職や既存社員との壁をきっかけに窮地に立たされることに。その時、ある経営の先生との偶然の出会いから経営改革に乗り出します。
社員全員で決算書作りを勉強したり、毎日お客様にはがきを書いたり、地域活動として近隣の公共や学校のトイレ清掃、また地域のフリースクール生徒の就労体験を受け入れ自立の応援に。その後大きな反響があり旅館をフリースクールとして開校。「自傷や引きこもり、少年院を出てきた子たちが、さかえやの社員たちの優しさに囲まれながら成長していき「地域の方々に助けられ実現できた」と湯本氏。そして全国1,600の応募がある旅館甲子園で、見事二回連続優勝。
「人から応援される企業は幸せ、応援してもらうには面倒でもやらなくていいことでもやること。将来の夢は、人が輝ける人材育成の場にしていきたい」と力強く話されたのが印象的でした。
最後に、さかえやに3回も行ってきた座長から、
「社員さんを見てください!」と言わんばかりに旅館甲子園の様子を収めたDVDがフロントに並べてあり、それを見るとさかえやの更なる魅力が分かると絶賛されました。そして映像の中には、湯本氏の弟さんが生き生きと働き、旅館甲子園のステージに上がっている姿も収められています。(DVDは、湯本氏から参加者全員に、特別に無料配布されました)
さかえやに行きたい!参加者のだれもがそう思う素晴らしい報告でした。ありがとうございました。
記録/木林 一幸