委員会活動
第1回「就業規則でトクしちゃいましょ?」
2021年9月3日に、人を生かす経営推進協議会主催「就業規則でトクしちゃいましょ?」が開催されました。
「就業規則?うちの会社は社員2人やから関係ないわ。」
「顧問の社労士に全部任せてあるから大丈夫。どんな中身になっとっか知らんけど。」
「そーいえば作ってから一回も見直ししてない。」
皆さんの会社はいかがでしょうか??
講師の湊恒成さん(富山中央社会保険労務士法人 代表社労士/城北支部)は、
『就業規則がない会社というのは、そもそも自社の労務管理が法律に基づいて行われているかどうか、もしかしたら法律を守れていないことがたくさんある状態で社員を働かせているのかもしれない。』
と警鐘を鳴らします。
もうすでに就業規則がある、という会社も、長年見直していない・作成過程で社員との話し合いがないのであれば同様の危険性があります。
就業規則を作るということは、労働環境のグレーゾーンをひとつひとつ確認していく作業。
「これぐらい社員はわかってくれるだろう」が積もり積もって大変なことになってしまう前に、しっかりと今の時代に合った就業規則を作っていく、または見直していくことが大切ですね。
<今回のセミナーを受講された方の感想>
今回のオンラインセミナーを企画、運営、報告して頂いた皆様ありがとうございました。
大変有意義で勉強になる時間となりました。
会社を成長させていく上でまずもって経営者自身が意欲的に取り組み、経営計画や事業戦略といったヴィジョンを示していくことは必要ですが、それが経営者自身の一方的な考えであるとするのなら、そのヴィジョンが実現していくことはありません。
共に働く社員と想いを共有し、良い 職場環境を整備し組織としての結束力を高めていくことが不可欠で、それらを構築していく要素の 一つが就業規則であるのだと思います。
ダイバーシティやデジタル化が浸透していく中で、労使関係にも柔軟性が求められていると感じます。
一概に就業規則を策定するのではなく社員さん一人一人の意見を汲み取りながら、この会社で働き続けたいと思える就業規則を創っていくことが必要だと思いました。
また就業規則の実践を通して社員満足度を高めていくためには、それを具現化していくだけの収益・安定したキャッシュフローが欠かせません。
どれだけ素晴らしい理念があってもそれだけで 形になることはありませんし、企業を取り巻く外部環境が大きく変わっていく中で、いかにして堅実な財務に強化していくかということは、社員さんにとって良い経営環境を作る上でとても重要なことであると思います。
就業規則をテーマにしたオンラインセミナーでしたが、真のテーマは「何のために会社をやっているのか?」「会社をどうしていきたいのか?」だったのではないかと思います。
私は会社経営を通してWell-beingの実現、社員さんにとって良い会社を創っていきたいと思いました。
ありがとうございました。
射水支部 株式会社前田瓦工事店 前田拓矢
「就業規則でトクしちゃいましょ?③」
就業規則に関する基本のキ~初めて就業規則を作成する時に知っておくべきこと~
文責:湊 恒成会員(富山中央社会保険労務士法人 代表社労士/城北支部)
9月3日の第1回目は、あくまでも基本的な、全く就業規則がないという会社向けのお話しをします。
もうすでに就業規則はあるよ、基本的な労務管理はできているよ、という方には、そんな内容もう知っているという内容になります。
それでは「就業規則に関する基本のキ~初めて就業規則を作成する時に知っておくべきこと~」というタイトルでお話させていただきます。
今回の結論にもなりますが、「就業規則をつくる」というのは、「自社の労務管理を適正に行っていく」ということに他ならないわけです。
就業規則がない会社というのは、そもそも自社の労務管理が法律に基づいて行われているかどうか、もしかしたら法律を守れていないことがたくさんある状態で社員を働かせているのかもしれません。
就業規則を作るということは、労働環境のグレーゾーンをひとつひとつ確認していく作業だと私自身は思っています。
社員達に最低限労働基準法に守られた働き方をさせていくことは、経営者としての責務です。
就業規則に関しての基本的知識①
1)就業規則が必要な会社とは?
皆さんの会社に就業規則はありますか?
労働基準法的には、常時10人以上の労働者を使用するということに至った場合「就業規則を作成、届け出、周知する」という義務があります。
よく「パートさんやアルバイトさんは人数に含めないんでしょう?」と聞かれますが、もちろん含めます。
役員は含める必要はないですが、パートアルバイト含めて10人以上になったらこの義務が発生します。
ですが、就業規則は働くルールでもありますし、働く皆さんを守るルールでもありますので、特に10人以上にならなくても本来はつくるべきではないかと思っています。
就業規則に関しての基礎知識②
「就業規則を見直してください」という話を頂いてその会社に行くと、就業規則はあるにはあるけど社長のデスクにある、というケースがよくあります。社長に理由を聞くと「就業規則を社員に見せるといろんな権利ばっかり言われるから見せたくないんや」と、そう言われることがありますが、それでは就業規則を作ったことにはなりません。
就業規則は作成するだけではだめで、『作成➡意見聴取➡届出➡周知』してはじめて効力を有します。まず作ってみて、社員の皆さんに「こんな内容だけどどうかね」と意見聴取をする必要があり、その上で、労働基準監督署に内容を届け出します。それからまた改めて社員に周知します。
ここでの周知というのは、本来はみんなに一冊ずつ配るのが一番いいですが、配らなくても「ここに置いておくから見たい時はいつでも見てね」という状態にしておくことです。ここまでやって初めて効力を有します。逆に言えばそれをしていなければ、作ってあってもなんの意味もないものになってしまいます。
就業規則に関しての基礎知識③
就業規則には何を書くのか?ということもよく聞かれるのですが、原則何を書いてもいいのですが、労働基準法上書かなければならないこと(制度があれば書かなければならない事項も含む)だけお伝えします。
①始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等
②賃金に関する事項(支払時期、計算方法、昇給に関する事項等)
③退職に関する事項
④退職手当、賞与に関する事項
⑤表彰・制裁に関する事項
絶対的記載事項と相対的記載事項というものがあり、上記④と⑤が相対的記載事項といって「制度があった場合には必ず書きましょう」という部分です。
例えば、項目①に「休日、休暇等」という言葉がありますが、これは有給休暇を指します。有給休暇がしっかり与えられていない会社は、残念ながら同友会会員の中にも結構あります。「有給休暇なんかたくさんとられたら困るから、有休休暇の項目は就業規則に書かんといてくれ」と言われたことがありますが、それも私のキャリア11年の中で1回や2回ではありません。しかも残念ながら同友会会員からも何度か言われました。
このような考え方はしっかりと変えていく必要があります。有給休暇に関しても、これは社員の権利であり、日本の法律によって守られている権利ですので、自分の会社の社員が、当たり前に守られるべき権利によって当たり前に守られている状態にすることは、最低限必要なことだと思います。
年間の休日数は足りていますか?
ここで、初めて就業規則を作るときによくあるケースをいくつかお話しします。
これは特に建設業に多くみられるケースかと思いますが、例えば1日8時間労働、日曜日休み、土曜日は月2回休み、お盆3日休み、年末年始5日休みの場合です。この場合、2点問題があります。
問題①休日数が足りない
このケースで計算していくと、日曜日数:52日、土曜日休日数:24日、お盆:3日年末年始5日、年間で合計84日の休日となります。
土曜日出勤があって1日8時間労働であれば、最低限年間105日の休日が必要になるのですが、この会社はなんと年間で21日もお休みが足りない、ということになってしまいます。
ではどうやってあと21日のお休みを設けていけばいいのでしょうか。例えば、1日8時間労働ではなく、1日7時間労働、または1日7時間半労働にするにすると、お休みの数を減らしていくこともできるので、要は「法的にどうやってお休みの数を確保していくか」ということを、就業規則を作っていくなかで考えていく必要があります。
問題②週当たりの労働時間が48時間になる週が存在する
この場合、土曜日は月に2回しか休みがないので、48時間になる週が毎月2回も3回も存在しますが、ここにも問題があります。労働基準法の原則は1日8時間、週40時間までが法定範囲内となっています。なので48時間働いている週は、本来は超過した8時間分の残業手当を支払わなければならない、ということになります。ではどうすればいいのか?ということを、これも先ほどと同じように、就業規則作成を通じて考えていく必要があります。
問題①休日数が足りない、ということについては、細かい話は時間がないので今日はしませんが、対象期間1年間の平均で週40時間内に調整する、という方法もあります。これを「1年単位の変形労働時間制」と言います。このケースのように年間休日84日でまわしていくしかない場合は、1日8時間ではなく、1日7時間程度に労働時間をおさめるなどの工夫が必要です。
問題②週当たりの労働時間が48時間になる週が存在する、については、1日8時間、週40時間を超えた時間は、2割5分以上の率で計算した金額を別途時間外という形で給与を支払う必要があります。
また、先ほどお話した1年単位の変形労働時間制を導入して、正月休みやお盆休みをうまく使って、1年の平均労働時間を週40時間以内にしていくという方法などもあります。その場合、原則として年間カレンダーの作成が必要で、年間カレンダーをもとに労使協定を作成し、労働者代表者と協定を結び、協定書を添えて、労働基準監督署に届出を行ってください。
1年単位だけでなく1か月単位の変形労働時間制という考え方もあります。この場合も労使協定を結び労働基準監督署に届出をするか、就業規則に詳細なルールを記載しておかないと、「うちは1か月の変形労働時間制でまわしている」と口頭で主張しても認められません。
1か月の総労働時間は、3パターン(31日であれば177.1時間、30日であれば171.4時間、28日であれば160時間)の中でそれぞれシフトを組み、労働時間を管理していくという方法もあります。ですので、週40時間以上の労働があったら直ちに2割5分の賃金を支払わなければならないということではなく、一定の手続きをしておけば法定内の中でまわしていくこともできますが、それも就業規則を作成する中で、自社はどのような変形でまわしていかなければならないかをしっかりと考えていく必要があります。
基礎知識③
1)有給休暇の基礎知識
雇い入れの日から起算して6か月経過後の有給休暇付与日数は原則10日となっています。勤務年数が経てばたつほど有給休暇がたくさん付与されていく仕組みです。
6年6か月以上働いてくれている方には20日間、7年6か月経てばたてばまた20日間の有給休暇が付与されますが、有給休暇の有効期間は2年間となっていますので、2年間たてばそれ以前のものは無効となるため、最大で40日間分の有給休暇が付与されることになります。
では年間40日間もの有給休暇をとらせなくてはいけないのか?というと、それは現実的に考えて難しいでしょう。後ほど詳しく述べますが、今は「毎年必ず5日間は社員に有給休暇をとらせなさい」というルールになっているので、この義務を最低限クリアすることは当然必要になってきますし、国のデータとして日本の有給休暇取得率は50%ということなので、いわゆる世間並に自社の社員にも有給休暇を使ってもらおうということであれば、じゃあ半分ぐらいは有給を使える仕組みを会社で考えていきたいね、ということになると思います。
「社員に有給休暇をどうやってとらせようか」と積極的に考えている経営者と、「社員に有休休暇をとられたら困る、なるべく取ってほしくないな」と思っている経営者と、両極端にわかれます。長い目で見た時に、どちらの会社が発展するか?という視点でも考えて頂けたらと思います。
今日お話しをする前に、事務所で、「この会社は良い会社だなと思えるのはどこか?」という話をしていたのですが、いくつか挙がった会社にはやはり共通点がありました。私の視点からすると、歴史が長い会社には良い会社が多いと思います。離職率が非常に低くて、若い社員も採用できている。
歴史が長い会社は、有休休暇や時間管理をしっかりと行い残業代もしっかりと払えている、そういうやっていて当たり前の労務管理が当たり前にできている会社だと思います。会社が長く続くための要素はたくさんあると思いますが、「当たり前の労務管理が当たり前にできていること」が最低限の要素だと思います。そういったことができていてはじめて会社が長く存続できる、まさにここがベースであって、その上にいろんな要素がのってくるのではないかと思います。
私が開業して今日にいたるまで、顧問先になって下さった会社で残念ながら会社整理された会社もいくつかありますが、そこの共通点を考えてみても、いずれも、経営者の視点から労働者が置き去りになっていた気がします。どうやって社員にたくさん働いてもらうか?ばかりを考えているのに、賃金は多く払いたくない、有休休暇もとらせたくない、しまいには社員の悪口が出てくるような会社は、やっぱりうまくいきませんよね。
有休休暇のことで「パートさんにも与える必要があるの?」とよく聞かれますが、これは当然、パートさんも労働者なので付与する必要があります。ただ、比例付与と言ったりしますが、原則的には週所定労働日数によって、つまり週何日間働くか、3日なのか2日なのかで、マックスの10日から比例して少なくなってくるという仕組みになっています。また、1日の労働時間が短くても、週5日間出勤している方には10日間付与する必要があります。
最後に、基礎知識として、有休休暇の使用者からの時季指定(5日間)について話をします。もちろん皆さんご存知だと信じたいのですが、これは、使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えられなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)というものです。
皆さんできていますか?「うちはそんなもんいいわ」という話ではなくて、他の会社では最低5日の有給が与えられるわけなので、自社の社員だけ与えていないなんてそれってどうなの?と考えていただきたいです。
よくある質問
1)現場までの移動時間は労働時間か?
2)手書きの日報はタイムカードの代わりになり得るか?
3)「当社には残業はありません。」は通用しない。➡未払い賃金の時効は3年間
これも建設会社でよくあるケースになりますが、「うちは現場で働いている時間のみ仕事として認めている」、「時間管理はしていないけど毎日日報書いてもらっているからそれで時間をみている」、実はこれらも原則として認められません。
建設会社の就業規則をつくる時には、よくここが大きなハードルとして立ちはだかることがあります。直行直帰で現場に行って帰ってくるのならいいのですが、一回会社に出勤をして、その日必要な資材などをトラックに積み込んでから現場に向かう場合、当然仕事の開始時間は会社に出てきて資材を積み込むところから始まるので、先ほどの内容は通用しなくなります。
現場で働く時間だけではなく、会社に出てきた時間、現場から会社に戻ってくる時間も労働時間として考えることが大切で、しかも日報ではなく、客観的にわかる方法での時間管理が必要になります。
そうなると当然人件費も増えます。今はまだ就業規則がないという会社は、そういう費用も増えるということも覚悟をした上で就業規則を作っていかなければなりません。今日の話しは"トク"する話じゃないのか、と言われそうですが、人件費がその分増えることを損と考えるか、労働者が当然保護されるべき権利を経営者として保証してあげる会社づくりをしていくことによって、社員さんが少しでも幸せになって、離職率も減って、会社が発展していくことが、真の意味での"トク"なのではないかと思います。