先日中陳さんが事務局にいらっしゃった際、「うちに入社してくれた新入社員が、自分の母校に求人票を届けにいってくれた」と嬉しそうに話してくださったことがきっかけで、今回社員さんへのインタビューも含めて、取材をさせて頂くことになりました。
中陳さんは現在富山同友会 経営労働委員長を務められ、1993年、弱冠24歳の時に入会。お仕事内容は防水工事全般です。やはり職人集団ということで、以前は即戦力となる中途採用が主でしたが、あるきっかけから取り組み始めた高校求人が少しずつ実を結び、若い社員が定着する会社になるまでの取り組みをお聞きしました。
新卒採用に取り組んだきっかけ
「技術承継という面でも、組織の活性化という面でも、何か手を打たなくてはいけないという漠然とした危機感はあった」という中陳さん。新卒採用を始めたきっかけをお聞きすると、同友会で"新卒採用で会社が変わった"という報告をよく耳にするため、それでご自身も挑戦してみたいと思ったからだそうです。
新卒採用の基礎から学んだ
新卒採用には5年前から取り組みはじめました。まずはハローワークだろうと思って求人票を出したんですが、うんともすんとも、2年間続けてみましたけど応募はさっぱりでした。それで、3年前に同友会の共同求人委員会に参加し、新卒採用の基礎を学ぶことにしたんです。委員会の仲間に会社案内や求人票の書き方を教えてもらい、「高校生を採用したいなら、ハローワーク任せではなく高校に直接求人票をもっていった方がいい」というアドバイスをもらいました。
共同求人委員会に参加してすぐ、2名採用することができました。と言っても、息子の友人なので、会社の実力で採用できたわけではありませんが、それでも嬉しかったですね。しかし順風満帆とはいかず、内1人はすぐに辞めてしまいましたが、もう一人のT君は今年後輩もでき、がんばってくれています。先輩社員も彼に対し嫌がらずに仕事を教えてくれているようです。
実は、T君が今もうちでがんばってくれている理由がわからなかったのですが、今日のインタビューで、彼がしっかりと自分の考えを話してくれたことで、ようやくわかった気がします。普段なかなか社員とこんな話できないもんで。。
お互いに教え合う社風がどうやって生まれたのか?
僕は2代目経営者ですが、もともと僕自身がこの仕事が好きでも嫌いでもない中、苦労しながらなんとか技術を覚え、お客様からの感謝の言葉をもらう度、少しずつ好きになっていったという経緯があります。苦労したらからこそ、人に教えることが好きですし、教え方を身に染みて知っている。それが会社のみんなにも伝わっているのか、教え合い、組織で動くことを大切にするようになってきました。1人で行かなければならならい現場は熟練の仕事。若いうちは後輩の面倒をみられるように、それから現場全体をみる力を養えるよう、チームを編成しています。
自分の力で生きていける人になってほしい
若い社員達には、働くことを通じて、周りの人の喜びや幸せを願って行動できる人、自分の力で生きていける人になってほしいと思っています。そういう人は人と助け合うことができる。とはいえ、僕自身もなかなか素直に人を褒められないところがあって、反省なんですが(笑)
社員教育においては、幹部間で若手社員の情報共有を心がけています。T君の先輩にあたる社員も、同友会の中堅社員研修に参加したことがきっかけで、自分は後輩を育てる立場なんだということを強く感じてもらえたようです。最近では、社員同士が話し合って、休みの日を決めることができる仕組みになりました。しかも、若い社員が優先的に決めることができるんです。それは、ベテラン社員が「俺たちだって若いころは遊びを優先させてもらってきたんやから、お前たちが先決めていいぞ」という思いやり。逆にベテラン世代は病院通いなどで休まなければならない日があり、その時は若手がフォローしたり。世代間を思いやり、お互いにうまくフォローできていると思っています。
建設業は、将来独立を目指す職人集団と思われがちです。しかし年をとるとどうしても体が動かなくなってきます。工期短縮が強く求められる昨今、一人でやっていくには限界があると思っています。組織で動かないと、会社経営自体が成り立たないのです。組織の力で、お互いの弱みを助けあって、お互いを思いやる雰囲気を大切にしていきたいですね。
会社の10年先を見据えて、地域とのつながりを強固に
新卒採用はこらからも毎年続けていきたいです。そのためには、労働環境の整備と、同友会でいう科学性の部分、つまり10年先まで見られる計画性が必要。新卒採用はお金もかかります。
厳しい言い方かもしれませんが、新卒採用に二の足を踏んでいる企業は、世の中の景況に振り回されている企業だと思います。中小企業は自立しないといけません。これはまさに同友会に入会し僕が一番学んだことです。とにかく経営が苦しく、経営者の仕事なんて全くわかっていない24歳の時に入会し、そこで出会った先輩経営者の方々から必死に学んできました。
同友会という組織の力を利用して、1社ではできないことをやっていく。以前、新川支部と政策委員会が取り組んでいるハッピー上市会という勉強会に参加し、そこで上市高校との繋がりができ、採用に結び付いたという実例もあります。今後は同友会として県教育委員会のトップと繋がりをもち、先生達に、卒業生のその後の成長についてもっと興味をもってもらいたいと考えています。先生達を巻き込んで、若者を地域で育てるという目的を共有できればいいですね。
新卒採用をやってよかった!と実感したことは?
会社の10年先を真剣に考えられるようになったことですね。暗い話はいっぱいあるけれど、何か一つでも未来に明るい光が見えるというのは、僕にとって本当に幸せなことなんです。簡単に今に至っていないからこそ、そう言えるのかもしれません。人が成長する姿を目の当たりにすることで、何より自分が一番勉強になっていると感じます。
新卒採用は絶対やった方がいいですよ!そんなに簡単にうまくはいきませんが、そこで諦めるか、諦めないかの話。新卒採用が強靭な企業づくりに直結するという話しが、ようやく実感できるようになりました。同友会の前代表理事である森田昌孝さん(株式会社モリタ 代表取締役社長)の会社みたいに、社員達が自ら労働環境を変えていけるような仕組みにしていきたい。
簡単な話ではありませんが、次世代の組織を考えながら、少しづつ体制を整えていきたいです。
同友会の支部づくりは、自社の組織づくりの勉強の場
次世代の組織づくりということを考え始めたのは、実は城北支部長を務めていた時なんです。支部組織を活性化すること、次のリーダーを育てること、まさに事業承継問題の核たるものを学ぶことができました。常に次世代を意識して、どんな組織にしていきたいのかという思いを、姿勢として常に見せ続けることが大切です。同友会と自社経営は不離一体。まぁ、同友会は頭で考えるより慣れた方が早いですよ(笑)
入社3年目のTさん、入社6か月のOさんにお聞きしました
<入社のきっかけは?>
Tさん:入社のきっかけは社長に「うちで働かんけ?」と誘われたことです。もともと体を動かすのが好きで、職人の仕事にあこがれていました。
Oさん:僕は高校にきていた求人票を見て、いいなと思ったんで、企業見学会に参加し、入社しました。
<仕事や会社のどんなところが好きですか?>
Oさん:もともと人の役に立つ仕事をやってみたいという思いがあったので、住宅に関わる仕事はぴったりだと思います。先輩から技術的なことを教えてもらえたり、プライベートでも遊びにいったりします。外仕事できついこともありますが、先輩たちとはほどよい距離感でいい会社だな~と思います。
Tさん:住宅の仕事に携わり、お客様から直接「ありがとう」「ご苦労さま」と声をかけてもらえたことが嬉しいです。会社の休日を社員同士で話合って決められるなど、自分達の意見を聞いてくれる社風がいいなと思います。
<社長は毎年新卒採用に挑戦するとおっしゃっていますが、後輩ができることに対してはどう思う?>
Tさん:自分はすでにO君という後輩ができて、ちゃんと面倒みてやらなきゃと思っているし、これからは現場をまとめていけるような存在になりたいと思います。O君も早く成長して僕を楽にしてほしいですね(笑)
Oさん:後輩が入ってきた時、すぐ追い抜かれたらヤバイんで、まずは自分が技術を身につけることをがんばります。もしも後輩が遅刻をしたり挨拶がなかったりしても、まずは僕が姿勢を見せて、背中で教えてあげられるような先輩になりたいと思います。
同友会に入会して24年が経ちました。入会当時は24歳でしたから経営者以前のレベルで、経営のことよりは遊ぶことばかり考えていました。今から振り返ってみると同友会では、社会人の基本から学ばさせていただいたのだと思います。
後継する前は、社会人の基本から仕事への向き合い方を学び、営業を学び、後継者としての心構えを学び、トップになる準備をしていました。そのおかげでトップになってもそれほど迷うことはなかったと思います。
現在では「良い経営者」「良い会社」の学びはもちろんのこと、同友会の組織運営のやり方を自社経営の運営に生かすなど、無駄なく同友会を利用させていただいています。こんな自分が経営者として目的や目標を持ち、日々やりがいを感じて経営できるのも、同友会で学び続けていたからだと思います。
さて、そんな自分が所属する城北支部ですが「仲間の夢を応援しあう、日本一繋がりの強い支部!」を目指しています。「夢を持って頑張っている仲間」も「これから頑張りたい仲間」も支部活動で、関わりながら楽しく学んでいます。もちろん経営以外の悩みも出し合い、それに皆が自分ごとのように相談にのってくれます。よく「経営者は孤独」だと言いますが、ここにくるとそんなことはまったくありません。そんな雰囲気の支部活動から、同友会の大事にする「人を生かす経営」が学べると考えます。